渋谷の歴史を眺めてきた「名曲喫茶ライオン」で、伝統の音に身を委ねる

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存
  • 0

今回の取材は、ライター2人(瓏砂・瑠璃)で行いました。
通常とは異なりわざわざ取材の時間を設けて頂くことになったのには、以下のような経緯があります。
瓏砂の愛する、都内屈指の名曲喫茶であるこのお店、当然「レトロ喫茶東京」でも以前から取材候補に挙がっていました。
ですが店内には「撮影・大声でのお喋り禁止」の張り紙があります。
そこでスタッフさんに「レトロ喫茶ブログで紹介させて頂きたいのですが、撮影させて頂けませんか?」と尋ねました。
すると、「開店前でしたら可能です。電話でアポイントをお願いします」とのことでした。
「そのうちに」と思いながら数ヶ月。
瑠璃がライターに就任することになり、「一緒に取材に行きましょう」と盛り上がり、ようやく実現に漕ぎつけました。

何度も改修が行われ、今の姿に。

さて当日。

「創業1926年」の文字が躍る、竪琴型の看板。

外観を撮影した後、わくわくしながら扉を開け、取材に来た旨伝えたところ、スタッフさんから「聞いてませんが・・・」とのまさかのお返事。
どうやら連絡ミスがあったようです。
「すぐオーナーが参りますので」の言葉通り、それから本当にすぐにオーナーさんがいらして下さいました。
店内はカーテンが開けられ、いつもの薄青い光で照らされた、夜行列車の中のような雰囲気とは、また違った様相を呈しています。

オーナーさんからお話を伺う瑠璃と、インタビューを瑠璃に任せ、撮影に取り掛かる瓏砂。まずはスピーカーへと向かいます。


HPやパンフレットで「帝都随一」と謳われた、高さ3mを超す名物スピーカーから響き渡る3D音響を存分に堪能できるよう、席はほぼすべてスピーカーに向けて配置されています。


その、白いカバーを掛け一方向を向いた椅子の並びとデザインが、列車の中のような印象を与えるのです。
都内、いえ、日本国内での随一の「名曲喫茶」として名が知られているだけあります。

1926年(昭和元年)に建てられ、東京大空襲で焼けた後、1950年(昭和25年)にお隣の土地を買い取り、倍の広さで再建したという店内は、当時は3階までお客で満席だったそうです。
昔はお客さんは男性ばかり、皆レコードを風呂敷に包んで持ってきて、お店でかけてもらったのだそう。
今でも、LP・CD・MDなどの音源持ち込みOKになっています。
名物のスピーカーは、新たに建てられた側に設置されています。一番音の良い席は、吹き抜けに面した二階の最前列だとか。


喫茶店ブーム時(1960〜70年代)は詰襟の男子学生たちが、二階最前列の特等席に何人も並んで、その音楽を楽しんでいたそうです。
また、当時は「スピーカーを剥き出しで見せるのは美しくない」との初代オーナーの美意識から、絽のカーテンをスピーカー前に垂らしていたそうで、
その絽のカーテンには初代オーナーの奥様による金糸の刺繍が施されていました。

アメリカのオーディオ雑誌に掲載されました。

左上、カーテンの掛けられたスピーカーの写真。

2階に上がってみましょう。

階段を上がると、そこにもシャンデリアが。


ギリシャ風の柱とアーチ状の仕切りの縁取りは、金色に塗られ、豪奢な雰囲気を更に強めています。

二階席もやはり、スピーカーを向いて並びます。

外装、内装ともすべて初代オーナーのデザインで、入口のライオンのレリーフに至っては、初代オーナー自ら彫ったのだそう!


その卓越したセンスには、脱帽するほかありません。
驚いたことに、初代オーナーはヨーロッパに渡航した経験がなく、「想像でのヨーロッパの館」をデザインしたのだそうです。

毎月デザインの変わっていたパンフレットも、初代オーナーのデザイン。


1階に戻ると、注文したホットコーヒー(550円)が運ばれてきていました。


ロンドンのライオンベーカリー直伝だそうで、大鍋で煮出すという、まるでチャイのコーヒー版のような珍しい淹れ方のコーヒーです。
コーヒーを頂きながら、私たちはオーナーが持ってきて下さった、貴重な資料を拝見しました。

ライオンベーカリーの看板。

戦時中は「他国の音楽を流すなんぞ許されまじ」と言われたものの、何とかお上の目をかい潜り、名曲喫茶としての営業を続けたそうです。

店諸共何もかも戦火で消失してしまい、戦後はレコードを闇市で購入したそうですが、
戦時中戦後の何も無い中でも、(そして当時の渋谷は驚く程に田舎だったそう)人々は、何かを求めてこの喫茶店のソファに腰をおろしたのでしょう。

それは慌ただしい現代でも同じですね。

オーナーさんは、初代オーナーさんと奥様を「パパさん」「ママさん」と、尊敬と親しみをこめて呼んでいらしたのが印象的でした。
その気持ちで今も当時と変わらず営業できているのだと感じました。

壁に飾られた作曲家の絵は、常連さんが描いて下さったもの。

気付くともう、開店時間の11時を過ぎています。
並んでいたお客様が入店し、スピーカーから古い録音のシンフォニーが流れ始めました。


毎日15時と19時に定時コンサートを行なっており、それ以外の時間はリクエストを受け付けています。
店員さんがマイクで曲名と指揮者・演奏家をアナウンスするのも、普通の喫茶店では見られない光景です。
いつでも好きな時に好きな音楽を聴ける便利な世の中、敢えてレコードコンサートの為に足を運ぶ、というのは、最高の贅沢と言えるのではないでしょうか。
(rosa)(ruri)

※名曲喫茶ライオン
住所:東京都渋谷区道玄坂2-19-13
電話番号:03-3461-6858
営業時間:11:00~22:30、無休(お盆、年末年始以外)
URL:http://lion.main.jp/

名曲喫茶ライオン

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存