人情の味がする。だからこその老舗。浅草特集「デンキヤホール」
今年の「浅草特集」の〆としてここに綴りたい。
私が浅草喫茶店特集をするきっかけとなった店がここだ。
創業年数もさることながら、店名や、喫茶店にも関わらず名物が「ゆであずき」 であることなど多くの疑問と魅力に掻き立てられた。
そして数ヶ月前に、 あるテレビ番組でお笑い芸人さんがここの店を勧めていた。
これはしばらくお客さんが増えるかなと思い、 年の瀬である今日やっと伺うことにした。
つくばエクスプレス浅草駅よりひさご通り商店街を通り、( ひさご通り商店街にある老舗喫茶店レイラの記事はこちら 喫茶レイラ)
千束商店街を進むと見えてきた。
冬の夕方は店の灯りが眩しい。
L字型の店内で奥の方の席にテーブルゲームが置いてある。( これもこのお店の名物だ)
80年代にブームになったゲームの復刻版と書いてあるが、 それも「1996年製」の文字。 平成初期も令和の時代になっては「レトロ」なのであろうか。
そう思っていると隣の席に来た大学生と思しき人々は「 これなんだろう?!」と話していたので、 やはり世間一般ではレトロなものに違いない。
お店はマスターと女将さん2人で切り盛りしているようだ。
ひとまず、名物の「ゆであずき」を注文。
甘さの中にほんのり塩加減が効いている。
ほんのり暖かく、身体に沁み渡る優しさだ。
空腹のスイッチが入ったのか、追加で「オム焼きそば」と「 クリームぜんざい」を注文。
オムマキ(オム焼きそば)、麺が少し扁平だ。
キャベツがしっかりシャキシャキしていて食べ応えがある。
こちらの焼きそばの麺は製麺所に特別にこの太さで頼んでいるらし い。どうりでソースや野菜との相性が良いわけだ。
写真にはないが、何種類かの七味も付いてくる。
さてデザートに「もう一度食べたいな」と思いクリームあんみつを頼んでしまった。
既に満腹に近いのではあるが「別腹」とはこのことだ。
テーブルに運ばれてきて急におなかが減る感じがした。
大粒のゆであずきとバニラアイス、下には葛餅。特製の黒蜜をかけていただく。
季節問わず美味しいと感じるであろう。
甘党でない私もこれには舌鼓を打ち続けた。
最後に少し苦みのある珈琲をゆっくり味わった。
他のお客さん達は漫画を読んだり友人と談笑したりしている。
実は「デンキヤホール」、オム焼きそば(※こちらの店舗では「オムマキ」という商品名だ)の発祥の店らしい。
1903年創業時は家電屋として創業していたが(店名の由来)、
関東大震災、そして大戦で2度も店を消失し、再建した後、初代オーナーがお祭りでの出店の焼きそばを見て「 これを卵で包んだら美味しいのではないか!」 と考えメニューにしたそうだ。
また、ゆであずきが名物なのは、 出店での出し物で小豆はお供えもの縁起物としてよく出されていた ため、そのままここでのメニューにしたそうだ。
それにしても、 浅草の人はぶっきらぼうに見えて話すと楽しそうに話してくれる。
そして(良い意味で)話し声が大きい。
初めはレジ打ちをしてくれた女将さんと話していたが話し声を聞い たマスターが厨房から出てきて話に入ってくれた。
私は九州の人間だが、浅草は地元にいるようで落ち着く。
その話を女将さんにすると、
「それねぇ、関西の芸人さんもみんなそう言うのよ、 この辺だけ大阪みたいだって!」と。
この近辺はお笑いや噺屋さん向けの演劇場が多いため、 プライベートで芸人さん俳優さんがよく来るそうだ。( どんな方がいらしているか気になる方は是非お店の方に聞いてほし い。両手では足りない人数です。)
そして、店もサイン色紙が少ない事に気付く。( 過去の浅草特集でもその事に言及している 「ブロンディ」)
女将さん、「皆さんご好意で、プライベートでいらしてるからね、 それで色紙はいただかないようにしてるの。」とのこと。
「でもね、テレビで芸人さんがたまに紹介してくれるの。 それが嬉しくってね、だからこうやって長い間続けられるのね。」
人情とか粋だとか、そんなものが一気に心に流れ込んできた。
お店にあるものも常連さんからいただいたものが飾られている。
この喫茶店を贔屓にしている芸人さんもテレビで「 なぜか落ち着く」と話していたが、 このような気遣いと人情が溢れているからであろう。
ちょっと疲れ気味の時に足を運んでもらいたい場所がひとつ増えた 。故郷のようだ。
もちろん、疲れていなくても行って欲しい。
発祥の地の麺にまでこだわった「オム焼きそば」か、名物の「 ゆであずき」か、悩んだらどちらも注文してもいいし、 友達や家族とシェアしても良いだろう。
さて私の今年の記事は今回で納めることにしよう。
おあとがよろしいようで。
※デンキヤホール
東京都台東区浅草4-20-3
03-3875-2987
9:00~21:00
水曜日定休